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2話 皇帝の降臨と元貴族たちの戦慄

Auteur: みみっく
last update Date de publication: 2025-12-22 07:58:28

 突然、謁見の間の重厚な大扉が左右に跳ね上がるように開かれた。

 外から押し寄せる尋常ではない威圧感。二十人ほどの精鋭護衛に囲まれ、堂々とした足取りでこちらへ向かってくるのは、先日、温泉で出会ったあの「おっちゃん」だった。

 その姿を認めた瞬間、それまで玉座にいた国王が慌てて端に寄り、床に膝をついて深く頭を下げた。騒いでいた元貴族たちは、まるで氷水を浴びせられたかのように顔を青褪めさせ、広間は耳が痛くなるほどの静寂に包まれた。

 ん? 国王より偉い人って……もしかして皇帝陛下……?

 ユウヤが驚きに目を見開いていると、男は周囲を圧するような鋭い眼光を元貴族たちに向けた後、ユウヤの前で足を止めた。

「久しいな……冒険者よ」

 その声は、温泉で聞いた時よりも一段と低く、重厚に響いた。

 明らかに他の者とは違う、一国の主である国王すらも霞むほどの格段に違うオーラ。その身に纏う絶対的な支配者の風格に、周囲の者は息をすることさえ忘れ、ただ畏怖の念を抱いて立ち尽くすしかなかった。男は、かつての気さくな笑みを消し、峻烈な威厳を湛えた瞳で、まっすぐにユウヤを見つめていた。

( あ……温泉の時の恐い人か……)

 ユウヤは、脳裏に刻まれていたあの強烈な存在感を瞬時に思い出した。しかし、あまりの驚きと、場にそぐわない再会に、思考より先に言葉が漏れてしまった。

「温泉の時の、冒険者のおっちゃん?」

 その言葉が広い謁見の間に響いた瞬間、周囲の空気が一気に凍りついた。

 皇帝の護衛たちは、一介の兵士とは一線を画す鋭い殺気を放つ精鋭たちだ。彼らが「侮辱」と判断し、一斉に腰の剣の柄に手を掛ける。金属が擦れる冷たい音が静寂を切り裂こうとしたその時、皇帝が静かに手を上げてそれを制止した。

 同時に、横にいたミリアが「むぅ~……」と、不機嫌さを隠さない表情で護衛たちを睨みつける。彼女の放つ無言の圧力に、鍛え抜かれたはずの精鋭たちが、たじろぐように視線を逸らした。

 どうやらミリアには弱いようだな。助かったよ……ミリア。皇帝に向かっておっちゃんって言っちゃったし……普通なら完全に侮辱罪で斬られても文句は言えないだろうな……。ユウヤは、首筋を伝う冷や汗を意識しながら、目の前の巨躯を見上げた。

「良く覚えていたな。それより、あの暗闇で話していたが良く分かったな」

 皇帝は、面白そうに口角を上げ、ユウヤの無礼を咎めるどころか、懐かしい友にでも会ったかのような温かみのある声で返してきた。その余裕に満ちた態度が、かえって彼の底知れない深淵を感じさせた。

「それは、おっちゃんも俺と気付いていたんだし……お互い様ですよ」

 ユウヤは、周囲の戦慄をよそに、温泉の時と同じような気負わない口調で返した。この圧倒的な威圧感を放つ人物を前にして、平然と肩を並べるようなその態度に、床に伏せている国王や家臣たちは驚愕に目を見開いている。

「あら? お父様とお知り合いだったのですか?」

 ミリアが、不思議そうに小首を傾げて、皇帝とユウヤを交互に見つめた。彼女の鈴の音のような澄んだ声が、緊張で張り詰めていた空気をわずかに和らげる。

「あ、いや……山に行った時に偶然に知り合った冒険者のおっちゃんだよ。って、やっぱりミリアのお父さんか……」

 ユウヤは、自分を納得させるように呟いた。あの時感じた並外れた威厳、そしてミリアの持つ高貴な雰囲気。全ての点と線が繋がり、ユウヤは内心で深い溜息をついた。

「そうか。おっちゃん……か。ククッ、ミリア、この男はなかなか骨があるぞ」

 皇帝は、豪快に肩を揺らして笑い、慈しむような視線を娘に向けた。しかし、その視線が再び平伏している元貴族たちへと向けられた瞬間、真冬の吹雪のような冷徹な輝きへと変貌した。

「さて……我の娘の婿となる男を、寄ってたかって侮辱していたのは、どこのどいつだ?」

 その低く地を這うような声に、先ほどまで不平不満を垂れ流していた元貴族たちは、歯の根が合わないほどガタガタと震え出し、石の床に額を擦りつけた。

 そらは、傍らに立つミリアをチラリと盗み見てから、すぐ隣に構えるおっちゃんへと視線を移した。

 岩石を削り出したかのようなゴツい体躯、刻まれた深い皺、そして見る者を気圧すほどの威厳を湛えた恐い顔。どこをどう見ても、一筋縄ではいかない武人の風貌だ。

 (……こんなに威圧感たっぷりで強面な人の子供から、あんなにも愛くるしい女の子が生まれるものなんだな。きっと、お母さんは相当綺麗な人だったんだろうな……)

 そんな勝手な想像を巡らせながら、ミリアの可憐な横顔をもう一度見つめる。外見こそ母親に似たのだろうが、どこか凛とした佇まいや、周囲を黙らせるような独特の威厳には、確かにお父さんの血を感じさせた。

「そうなのですか……」

 そらは、思わず納得したような、それでいてどこか複雑な響きを含んだ声を漏らした。

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